50点は悪い点数?―絶対的か相対的か―
事例1
あるお母様が暗い顔で仰いました。
「先生、今回の模試、50点しか無かったんです。」
私は発言の意図を確認しました。
「それは出来なかった、ということでしょうか?」
すると、お母様は言い切られました。
「はい。だって、50点はあまりに悪すぎます。」
しかし結果を拝見すると、平均点は約40点でした。
ちなみに生徒は、前回のテストから5点上がっていました。
事例2
あるお母様が明るい顔で仰いました。
「先生、今回の模試、70点も取れました。」
「そうですか。よろしければ、結果をお見せ頂けますか?」
そう言って結果を拝見すると、平均点は80点でした。
私はお母様に確認しました。
「それは出来た、ということでしょうか?」
すると、お母様は首をかしげて仰いました。
「え?だって70点は悪くない点数ですよね。」
ちなみに、生徒は前回のテストから5点下がっていました。
さて、問題です。
50点は悪い点数で、70点は良い点数でしょうか?
勉強が苦手なご家庭に、一つの傾向があります。
それは、保護者や生徒自身が良い点数と悪い点数を決めつけている、ということです。
確かに小学生の頃なら、多くの方に「80点以上は良い点、60点は普通、それ以下は悪い点数」等という認識があったかもしれません。
とはいえ、点数とは絶対的なものはなく、相対的なものです。
つまり、点数は何と比べるかによって価値が決まるのです。
点数を見たとき、効果的な視点は3つあります。
1 平均と比べてどうか
2 前回と比べてどうか
3 目標と比べてどうか
平均と比べてどうか
1つ目の大事な視点は、平均と比べてどうかです。
ちなみに平均点とは、テストを受けた人全員の点数を足して、テストを受けた人数で割った数のことです。例えば、50人のテストで総合計点数が3千点であれば、3千点を50人で割って、平均点は60点となります。現場を経験して分かったのですが、意外と平均点を理解しておられない方は少なくありません。「ヘイキンテンって何ですか?」と聞かれることもしばしばです。今まで平均点をご存じなかった方は、この機会に平均点を知って頂くことをオススメします。
1つ目の事例を見ると、結果は平均点より上でした。
つまり、全体より点数が上回っていたのです。ですから、決して「悪い点数」と決めつける必要はありません。
2つ目の事例を見ると、結果は平均点より下でした。
つまり、全体より点数が下回っていたのです。よって、必ずしも「悪くない点数」とは言い切れません。
このように、点数は絶対的に見るものではなく、相対的に見るものです。
点数が平均点より上であれば、全体の中では悪くないのは確かです。その旨を理解して、まずは「よく頑張ったね」と褒めることも出来るでしょう。
前回と比べてどうか
2つ目の大事な視点は、前回と比べてどうかです。
1つ目の事例を見ると、点数は前回より5点上がっていました。もちろん前回のテストの平均点にもよりますが、点数が上がったのは事実です。ですから、「また悪い点数」と決めつけるには早過ぎるかもしれません。
2つ目の事例を見ると、点数は前回より5点下がっていました。こちらも平均点を加味しなければなりませんが、点数が下がったのは事実です。よって、「悪くない点数」と考えるのは危ないかもしれません。
このように、点数は断続的に見るものではなく、連続的に見るものです。
例え平均点より下回っていても、点数が幾らかでも上がったのなら本人の努力を褒めることが出来ます。親にとってはどんなに小さな結果でも、子供にとっては大きな努力です。機会を逃さず、点数が上がったことを素直に褒めましょう。
目標と比べてどうか
3つ目の大事な視点は、目標と比べてどうかです。
例えば1つ目の事例の生徒は、入るのが難しい学校を目標としていたとします。そうすると、平均点が40点のテストで50点取れたとしても、模試の合格判定は良くないかもしれません。模試によっては、50点ではなく60点取れば安全圏、という場合もあります。
2つ目の事例の生徒は、入るのが易しい学校を目標としていたとします。そうすると、平均点が80点のテストで70点取ったとしても、模試の合格判定は良いかもしれません。模試によっては、70点ではなく60点取れば安全圏、という場合もあるからです。
このように、点数はその場限りで見るものではなく、ゴールと比べて見るものです。
ご家庭が見据える目標と比べて、現在地はどこか。そのために、何をどう対策していくのか。点数を目標と比べて判断できるご家庭は、生徒がより伸びる傾向にあります。
まとめると、点数は平均点・前回・目標の3つと比べると良いでしょう。逆に、3つ以外に陥りやすい視点には何があるでしょうか。例えば、人と比べることです。ある保護者は、他の家庭と、ある生徒はクラスメイトと比べてしまうかもしれません。
「ママ友の息子は○○点なのに、息子は○○点」
「あいつは○○点だけど、自分は○○点も取れた」
適度なライバル意識は本人のためになりますが、過度なライバル意識は本人のためになりません。それどころか、家庭や学校のトラブルに繋がりかねません。
確かに、近しい人の結果が気になるのは自然なことです。
「何点だった?」と多くの人々が点数を比べて一喜一憂する光景はよくあることです。ですが、本当に比べるべきは近しい人ではなく、自分自身であり、大多数の人々であり、将来の目標です。特に、受験生にとってライバルは学校の生徒ではなく、全国の生徒です。
要するに、点数は絶対的ではなく、相対的です。
自分で決めつけるのではなく、正しく比べましょう。
比べる時、ぜひ3つの視点を用いて下さい。点数は正しい光に当てると、課題や努力が浮かび上がってきます。それを褒めたり、冷静に分析したりすることで、本人の成長に繋がります。ぜひ、ご家庭で実践なさってください。